光触媒を用いた青果物流通容器の生菌数増殖抑制に関する基礎的研究

光触媒を用いた青果物流通容器の生菌数増殖抑制に関する基礎的研究

2005年02月02日

アパタイト被覆二酸化チタンを塗布した容器の殺菌効果

はじめに

近年、青果物流通では、容器包装リサイクル法の施行や物流コスト削減の要望の高まり、O14001(環境マネジメントシステム)や2005年発行の ISO22000(食品安全マネジメントシステム)の認証取得の必要性が高まっていることから、通いコンテナ(リターナブル容器)や青果用トレイの再利用化が積極的に導入されている。

このコンテナやトレイの再利用は、生産地からの出荷前、あるいは消費地にて青果物を陳列する前、殺菌や脱臭が望まれる。しかし、殺菌や脱臭等の衛生管理は、コスト面やハード面の問題があるため、生産地や消費地単独で行うには作業性の煩雑さなどの問題が生じる。

それに対して、最近注目されている光触媒は、光(太陽光、厳密には380nm以下の紫外線)照射で温度に関係なく有害物質の分解や除菌が可能であるため、生産地から消費地までの様々な流通工程で、簡便にコンテナやトレイの脱臭及び殺菌ができる可能性を有する。

本研究では、青果物流通容器に利用できる脱臭・抗菌材料として、アパタイト被覆二酸化チタンに着目した。ここにアパタイト被覆二酸化チタンは、基材を分解しないため様々な材質の容器への塗布や練り込みが可能である。

また、アパタイトは細菌やウィルスなどのタンパク質やアンモニアやNOx、アルデヒドなどの吸着能に優れ、それを大量に吸着することが出来、二酸化チタンは光を照射することで強い酸化力を生じるため、有害な有機化学物質や細菌、臭いなどを分解し、炭酸ガスや水などに分解・除去することが出来る。

この二酸化チタンの殺菌・抗菌効果に関する報告は、環境分野を中心に広く注目されているが、報告は分離培養された供試菌が対象で、実用面での報告は少ない。ことに、青果物流通容器における二酸化チタンの利用に関する研究はエチレン分解を対象とした報告が主である。

そこで今回は、実際の青果物包装内の付着水滴を採取し、これと滅菌生理食塩水をホモジナイズした菌懸濁液を、アパタイト被覆二酸化チタンを塗布したプラスチック容器(以後、光触媒容器と略称)に分散させ、その生菌数変化(一般生菌数、大腸菌群数、真菌数)をもって殺菌効果の指標とした。これを種々の紫外線強度や温度の条件下で計測し、基礎的知見を整理したので報告する。

測定方法

1.材料

プラスチック容器(HC-07A、Risu製、内寸310×207×115mm、材質PP)にバインダー(AP-609L、Shouwa- Koubunshi)を塗布し、アパタイト被覆二酸化チタン(NSP-S001、Nonamic)をバインダーの上に吹き付け、乾燥前と乾燥後の質量変化を計測し、チタン1g塗布されたプラスチック容器を光触媒容器として測定に用いた。

次に、フィルム包装された市販のホウレンソウを購入後直ちに実験室に搬入し、これを室温(20℃)で室内で保存した。24時間後、袋からホウレンソウを取り出し、フィルム全体(面積200×100mm程度)に付着した水滴/水膜をスタンプスプレード(滅菌スタンプ瓶定量用TF-4000、栄研)で採取したのち、これに滅菌生理食塩水10mLを入れて振り混ぜた。この滅菌スタンプ瓶に入れた50mLを、10倍希釈となるように450mLの滅菌生理食塩水に入れ、これを菌懸濁液とした。

その後、この菌懸濁液100mLを光触媒容器の底面に均一的に広げた。容器には蓋をせず、上面をサランラップでシールした後、学内部屋の窓近くに 24時間容器を静置(紫外線強度0~0.35mW/cm2、直射日光は当たっていない)させた。容器から計測開始前と24時間後のモデル溶液を1mLずつ採水し生菌数を計測した。なお、測定に使用した容器は、測定前にブラックライトに1時間照射(紫外線強度0.20mW/cm2)し、エタノール噴霧し殺菌したものである。

2.生菌数の測定

一般細菌数は、試料液を100~107程度に希釈し、その0.1mLを標準寒天培地に塗抹し、これを48時間35℃の条件下で培養し、CFUから一般生菌数(CFU/mL)を算出した。大腸菌群数は、抽出液から0.1mLをVRBA培地に塗布し、これを24時間35℃の条件下で培養し、そのCFUを計測し希釈倍率からCFU/mLを算出した。

測定結果及び考察

図に測定時の生菌数(一般生菌数、大腸菌群数)の変化を示す。これを見ると、容器内の生菌数は時間の経過とともに、1.4logCFU/mL程度増えたのに対し、光触媒容器では、2.7logCFU/mL程度減じた。よって、今回の測定条件では光触媒容器はコントロールと比較して4.1logCFU/mL 程度の抗菌性があるといえる。また大腸菌群は光触媒容器により滅菌された。

コメント

今回の実験は、定量的なデータを得るため、各容器に100mLもの水膜を作りその生菌数の経時変化を調べたものである。目的にあるように、屋外にて洗浄・天日乾燥した場合、今回よりも良いデータが出るのは記すまでもない。既に、アパタイト被覆二酸化チタンの抗菌性は検証されており、このことからも天日乾燥による流通容器の滅菌(脱臭)は可能と考え、検証を行っている。
アパタイト被覆二酸化チタンの特徴は、

  • 基材を分解しないため様々な材質の容器へ塗布や練り込みが可能
  • 抗菌性を有する
  • 親水性を有する
  • 安全性を有する
  • エチレン等を吸着できる

である。21世紀型の青果物流通容器を考える場合、光触媒の利用は極めて実用的になるのではないだろうか?

参考文献
岩手大学農学部 小出章二 岸 司
中京大学生命システム工学部 野浪亨
論文より抜粋

Basic study on antibacterial efficacy of photocatalyst covered plastic container for vegetables and fruits : decontamination characteristics of plastic container covered with apatite coated titanium dioxide photocatalyst.